あるある文化財VOL.196 カササギ(3)(営巣2)
前号においてカササギの営巣場所の樹木から電柱への変化について、昭和50年代に行われた佐賀県の調査を基に紹介しました。本号においては、カササギの営巣に関することわざと、電柱営巣と人々の関わりについて九州電力の取り組みを例に紹介します。
現代では、気象衛星やレーダー技術の発展により、梅雨前線や台風の規模や進路など、天気予測の精度が大幅に向上しています。しかし、科学に基づく以前の天気予測については、これまでの経験や伝聞に基づくもの、例として、「夕焼けの翌日は晴れ」や「猫が顔を洗うと雨」などが挙げられます。このような天気に関することわざのことを「観天望気(かんてんぼうき)」と言います。その中にカササギの行動による観天望気があります。
現在でも時折、メディア等で動物の異常行動と天変地異の関係性について話題になることがありますが、前号で取り上げた『カササギの生態調査報告書』第1~3報、昭和59年度版において、カササギの巣と異常気象の関係について佐賀に伝わるカササギのことわざを基に検討が行われています。
そのことわざが「カチガラスが低く巣を作る年は、台風が多い」、「高く巣をつくる年は、大水が多い」です。お聞きになった方もおられるのではないでしょうか。報告書では、前年に作られた巣(古巣)とその翌年に作られた巣(新巣)の高さとその年に起きた災害の程度から検討が行われていますが、巣と異常気象の関係性を見出すことは困難だったようです。また、大水は大抵の場合、台風によってもたらされるので、台風には低く、大水には高く、という営巣位置の変動は矛盾するのではないかと指摘しており、疑問視しています。
カササギの営巣位置の高低差については、近年の研究により営巣の成功確率に影響を与えることが判明しています。高い位置の営巣ほど、営巣成功確率が高いことがデータから分かったそうです(江口2016)。
前号において、カササギの佐賀県内における電柱への営巣が90%を超えていることを紹介しましたが、これは電気を日々使用する私たち人間に影響を及ぼします。カササギは巣の素材として、木の枝の他に金属ハンガーや針金を使用することがあり、それが電線と接触することにより停電事故が発生することがあります。令和2年度、九州電力佐賀支社管内の鳥獣接触事故は6件発生していますが、その内の5件がカササギによるものでした。
ハンガー・針金が巣材に使用されたカササギの巣(白石町大字廿治)
カササギは、国天然記念物であり法律の保護の対象であるため、九州電力は、カササギとの共存と停電防止のための取り組みを行っています。具体的には、電柱上の設備に影響のある巣の剪定、巣を再使用しないカササギの習性を利用した古巣の撤去、毎年営巣する電柱に対し、巣との接触を避けるため上部に電線を湾曲させ通常より広い空間を設けるなど取り組みが行われています。また、特定の電柱上に風車を設け、営巣を防止する一方、佐賀県内の一部では、電柱上に人工の巣台を設置し、実際に営巣につながった例があります。以上のように、カササギの営巣環境の維持と人間活動の両立の取り組みが、私たちのすぐ身近にある電柱上で行われています。一度、電柱を観察してみてはいかがでしょうか。
カササギの営巣のため広い空間が設けられた電柱(県道武雄福富線六角小学校校庭前)
<参考資料>
2020年6月22日付け佐賀新聞電子版
江口和洋「カササギ」『日本鳥学会誌』2016年65巻1号
九州電力HP
佐賀県『カササギの生態調査報告書』第1~4報 昭和50~53年度
佐賀野鳥調査研究会『カササギの生態調査報告書』昭和59年度
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